はじめに
「ストレートネック」と聞くと、多くの人は「スマホの見すぎ」「デスクワークの姿勢の悪さ」を思い浮かべますよね?しかし実際には、首だけの問題ではなく、腰から胸、肩、そして首へとつながる全身の運動連鎖によって起きているケースが多いと感じます。
本記事では、理学療法士の視点から「反り腰」から始まるストレートネックのメカニズム、深頸屈筋の役割を最新の研究とともに解説します。
ストレートネックとは?
ストレートネックとは、正常では30〜40度あるはずの頸椎前弯(カーブ)が減少し、首がまっすぐに近づいた状態を指します。
- 下位頚椎は屈曲位
- 上位頚椎は代償的に伸展位
となり、頭部が前方に突き出る「頭部前方位(FHP)」を伴うことが多いです。
症状としては、首こり・肩こり、頭痛、眼精疲労、めまいなどが挙げられ、近年では姿勢習慣病の一つとも言われています。

深頸屈筋(Deep Cervical Flexors)とは?
深頸屈筋には主に 頭長筋(longus capitis) と 頸長筋(longus colli) が含まれます。
これらは頸椎の前方深部に位置する“インナーマッスル”であり、首の安定化・微細な姿勢制御を担います。
研究によると、ストレートネック患者では深頸屈筋の筋厚や持久力が低下し、代わりに胸鎖乳突筋や斜角筋といった表層筋が過剰に活動することが分かっています(Kim et al., 2016)。
反り腰から始まる運動連鎖
ここからが本題です。ストレートネックは首単独の問題ではなく、腰からの姿勢連鎖で説明できます。
- 骨盤前傾 → 腰椎前弯の増加(反り腰)
- 腸腰筋・大腿直筋の短縮、腹筋群の弱化が背景にあります。
- 胸椎後弯の増強
- 腰椎が反ると、バランスを取るため胸椎は丸まりやすくなります。
- これにより胸郭が下制し、肩甲帯は前方に巻き込みます。
- 頭部前方位の出現
- 胸郭と肩甲帯が前に出るため、頭部も自然に前方へ。
- 下位頚椎は屈曲し、上位頚椎は過伸展。結果として「ストレートネック」になります。
Elabdら(2021)の研究では、腰椎前弯と頭部前方位は相関することが示されており、この連鎖が科学的にも支持されています。
筋・軟部組織のアンバランス
- 短縮・過活動しやすい筋
- 腸腰筋、大腿直筋、脊柱起立筋、胸鎖乳突筋、後頭下筋群
- 弱化しやすい筋
- 腹横筋、大殿筋、ハムストリング、深頸屈筋、下部僧帽筋、前鋸筋
このバランスの崩れが「反り腰+ストレートネック」の典型パターンです。
研究が示すエビデンス
- 深頸屈筋トレーニングの効果
- Sikkaら(2020)の研究で、深頸屈筋トレーニングにより頭部前方位が有意に改善。
- 腰椎と頚椎の関係性
- Elabdら(2021)は、慢性腰痛患者において腰椎前弯と頭部前方位の関連を確認。
- 運動療法の有効性
- Warnekeら(2024)のレビューでは、姿勢異常に対するストレッチや筋力トレーニングが有効と報告。
日常で気にしないといけないこと
- スマホ・PC作業時は腰と胸のポジションも意識
- 「首を治す前に腰を整える」という発想が大事
- 日常的に「骨盤を起こし、胸を開き、軽く顎を引く」姿勢を心がける
おわりに
ストレートネックは首だけの問題ではなく、腰から胸を経由して首へと連鎖する全身的な姿勢問題です。
深頸屈筋トレーニングだけでなく、反り腰や胸椎の可動性改善を組み合わせることが、根本的な改善への近道となります。
参考文献
- Kim D, et al. Clinical effects of deep cervical flexor muscle activation in patients with neck pain. J Phys Ther Sci. 2016.
- Sikka R, et al. Effects of Deep Cervical Flexor Training on Forward Head Posture. Int J Health Sci Res. 2020.
- Elabd AA, et al. Relationships between forward head posture and lumbopelvic sagittal alignment in chronic mechanical low back pain. J Back Musculoskelet Rehabil. 2021.
- Atalay E, et al. Association Between Lumbar Lordosis, Thoracic Kyphosis, and Low Back Pain. Medicina. 2025.
- Warneke K, et al. Effects of Stretching or Strengthening Exercise on Spinal and Posture‐Related Measures. Sports Med Open. 2024.



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