はじめに
「猫背が直らない」「ストレートネックが気になる」——こうした悩みは、スマホやデスクワークが当たり前の現代人にとても多いものです。実はその背景に、“学習性不使用(learned non-use)”という脳の仕組みが関わっているかも??
この記事では、理学療法士の視点から「学習性不使用と姿勢不良の関係」、そして「ピラティスで改善できる理由」をわかりやすく解説していきます。
学習性不使用とは?
リハビリで知られる「使わないことを学習する」仕組み
学習性不使用とは、本来動かせる機能が残っているのに「動かない」と脳が学習してしまい、その部位を使わなくなる現象です。脳卒中後のリハビリ研究でよく知られています。
健常者にも起こる“学習性不使用”
実は健常者の日常生活の中でも起こります。例えば姿勢を正そうとしてもうまく続かない経験を繰り返すと、脳は「どうせ背筋を使わなくても座れる」と学習してしまいます。これが猫背やストレートネックの背景にある仕組みです。
猫背と学習性不使用
胸の筋肉ばかり働き、背中の筋肉が眠る
猫背では胸の前の筋肉(大胸筋など)が優位に働き、背中の筋肉(僧帽筋下部や菱形筋)がほとんど使われなくなります。
「背筋を使わない」ことを脳が覚えてしまう
背筋群が眠った状態になる → 猫背がラクに感じる → ますます背筋を使わない。この悪循環は学習性不使用の典型例です。
ストレートネックと学習性不使用
深層筋が使われず、表層筋に頼る首の状態
ストレートネックでは、頭を支えるべき深層筋(頸深層屈筋:longus colliなど)が使われず、胸鎖乳突筋や僧帽筋上部など表層筋が代償的に働きます。
肩こり・頭痛につながる悪循環
深層筋が働かないまま固定され、表層筋がパンパンに張ってしまう。結果的に肩こりや頭痛が悪化し、「正しい首の支え方」を脳が忘れてしまいます。
ピラティスで改善できる理由
普段眠っている「深層筋」を再教育する
ピラティスの大きな特徴は、普段眠っている深層筋にアプローチできることです。呼吸で横隔膜や腹横筋を活性化し、背骨を一本一本動かすことで多裂筋や脊柱起立筋を再教育します。
呼吸や背骨の動きで脳に正しい使い方を学習させる
ピラティスは単なる筋トレではなく、脳に「正しい動きを再学習」させるプログラムです。
実生活で期待できる効果
自然と背筋が伸びる姿勢習慣
デスクワーク中に自然と背筋が伸び、スマホを見るときも首が前に出にくくなります。
肩こり・腰痛の予防や自律神経の安定
肩こりや腰痛の軽減、呼吸の改善による自律神経の安定も期待できます。
まとめ
猫背やストレートネックは「筋力不足」ではなく、脳が正しい筋肉を使わないことを学習してしまった結果でもあります。これが「学習性不使用」です。ピラティスを通じて眠っている筋肉を再教育することで、姿勢は根本から改善されます。
参考文献
- Taub E, Uswatte G, Mark VW, Morris DM. (2006). The learned nonuse phenomenon: Implications for rehabilitation. Eura Medicophys, 42(3):241-256.
- Shumway-Cook A, Woollacott MH. (2017). Motor Control: Translating Research into Clinical Practice. Lippincott Williams & Wilkins.
- Falla D, Jull G, Hodges PW. (2004). Patients with neck pain demonstrate reduced electromyographic activity of the deep cervical flexor muscles during performance of the craniocervical flexion test. Spine, 29(19):2108–2114.
- O’Sullivan PB. (2005). Diagnosis and classification of chronic low back pain disorders: Maladaptive movement and motor control impairments as underlying mechanism. Man Ther, 10(4):242-255.



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