はじめに
「肩甲骨が浮いてるね」と言われたこと、ありませんか?あるいは、肩こりや猫背で姿勢を正そうとしても、なかなかうまくいかない…そんなときに関係しているのが 前鋸筋(ぜんきょきん) という筋肉です。
名前はちょっとマニアックですが、実は日常生活にも、ピラティスにも深く関わる重要な筋肉。今回は理学療法士の視点から、でも一般の方にもわかりやすく「前鋸筋とピラティス」についてお話しします。
前鋸筋ってどこにあるの?
前鋸筋は、胸の横側から肩甲骨の内側にくっついている筋肉です。
- 起始は肋骨(1〜9番目あたり)
- 停止は肩甲骨の内側縁
役割はシンプルに言うと 「肩甲骨を胸郭にぴたっと貼り付けて安定させる」 こと。
これが弱いとどうなるか?
肩甲骨が浮いて「翼状肩甲骨(winging)」になったり、肩甲骨の動きがぎこちなくなります。その結果、肩こりや猫背、肩のインピンジメント(挟み込みによる痛み)にもつながるんです。
姿勢と前鋸筋の関係
私たちは日常でスマホやパソコンをよく使いますよね。そのとき肩甲骨は外に広がり、胸が閉じて猫背になりやすい。
すると、本来働いてほしい前鋸筋はさぼりがちになり、代わりに首や僧帽筋ががんばりすぎる → 結果として肩こりやストレートネックが悪化していきます。
逆に前鋸筋がしっかり働くと…
- 肩甲骨が安定
- 胸が自然に開き、呼吸もしやすくなる
- 腕の動きがスムーズ
- 姿勢がすっと伸びて若々しく見える
つまり「美姿勢」のカギを握る筋肉といえます。
ピラティスで前鋸筋を使うには?
ピラティスは、体幹と呼吸、そして肩甲骨の動きをつなげるエクササイズが多いので、前鋸筋を活かすのにぴったりです。
ポイント① 肩甲骨を「押し出す」感覚
有名なのが プッシュアップ・プラス。
- 四つ這いになって手で床を押す
- 背中を丸めるように肩甲骨を外に押し出す
これが前鋸筋の基本的な動き。ピラティスの「キャット」や「プランク」にも同じ要素があります。
ポイント② 胸式呼吸とセットにする
ピラティスでは肋骨を広げる胸式呼吸を使います。
この呼吸に前鋸筋が加わると、肋骨と肩甲骨の連動がスムーズに。
吸うと胸が広がり → 前鋸筋が肩甲骨を支え → 姿勢がすっと整う、という流れができます。
ポイント③ 日常生活に応用
- 荷物を持ち上げるときに「肩甲骨ごと前に押す」意識
- デスクワーク中も時々、手を前に押して肩甲骨をリセット
こうした小さな動きも、前鋸筋を日常で呼び覚ます練習になります。
よくある誤解
「肩甲骨は寄せればいいんでしょ?」とよく言われます。もちろん僧帽筋の下部などを鍛えるのは大事ですが、寄せるだけでは前鋸筋は働きません。
むしろ前鋸筋が働かないと、肩甲骨を寄せても安定せず、肩がすぐすくんでしまいます。
大事なのは 寄せる+押し出す のバランス。ピラティスはこの両方を自然に組み込めるのが魅力です。
まとめ
前鋸筋は、肩甲骨を安定させ、姿勢を美しく整える「隠れた主役」のような筋肉。
ピラティスのエクササイズに取り入れることで、
- 猫背や肩こりの改善
- 呼吸のしやすさ
- 若々しい姿勢づくり
につながります。
「肩甲骨を押し出す」「胸式呼吸と合わせる」
この2つを意識して、日常生活やピラティスに前鋸筋を活かしてみてください。きっと身体が軽くなるのを実感できるはずです。
参考文献
- Ludewig PM, Cook TM. Alterations in shoulder kinematics and associated muscle activity in people with symptoms of shoulder impingement. Phys Ther. 2000.
- Cools AM et al. Rehabilitation of scapular muscle balance: which exercises to prescribe? Br J Sports Med. 2007.
- Wu WT et al. Long thoracic nerve injury: diagnosis and management. J Clin Med. 2023.
- Kowalski E et al. Electromyographic analysis of serratus anterior during push-up variations. J Strength Cond Res. 2021.
- Melo SC et al. Effectiveness of scapular-focused exercise in shoulder pain: systematic review. Phys Ther Sport. 2024.



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