はじめに
ピラティスの「デッドバグス(Dead Bugs)」は、体幹の深層筋――特に**腹横筋(Transversus abdominis)と多裂筋(Multifidus)**を協調的に働かせて、腰椎を安定させるエクササイズです。
四肢を動かしながら「腰を浮かさず、体幹を静かに保つ」動きによって、姿勢のコントロール力を磨くことができます。
理学療法士的にいえば、これは「分離運動の再学習」であり、腰痛予防・姿勢改善・スポーツ動作の基礎トレーニングとして非常に理にかなっています。

デッドバグスはホントに奥が深いと思うよ!
デッドバグスの効果
① 体幹深層筋のフィードフォワード的収縮
人が手足を動かすとき、実は腹横筋が先に働いてから四肢が動くことが分かっています。
これは、動作の前に体幹を安定させるための「予測的(フィードフォワード)制御」。
しかし、腰痛がある人はこの反応が遅れがちになります(Hodges et al., 1996)。
デッドバグスでは、四肢を交互に動かすことでこの「予測的安定化」を再教育できる。
つまり、動く前に体幹を整える能力を取り戻すトレーニングなんです。
② ニュートラルスパインを保つ力
ピラティスでは「ニュートラルポジション(背骨が自然なS字カーブ)」が基本。
デッドバグスでは、このニュートラルを崩さずに手足を動かすことが求められます。
四肢の動きで腰が反る・潰れるなどの反応が起きやすいですが、そこを腹横筋と骨盤底筋で抑える。
つまり、「動きながら安定する」という人間本来の姿勢制御をトレーニングしているんです。
③ 腰痛予防と機能改善
研究によると、腰痛のある人では腹横筋や多裂筋の働きが弱く、収縮タイミングも遅れています。
(Hodges & Richardson, 1996)
そのため、デッドバグスのような低負荷で精密な体幹コントロール練習は再教育に最適。
「お腹をへこませる」ような単純な腹筋運動とは異なり、
**姿勢保持のための筋肉の「連携」**を回復させるのがこの種目の目的です。
④ 呼吸との連動性
ピラティスらしさの要は「呼吸」。
デッドバグスでは、「吸って準備し、吐きながら動く」呼吸法を使います。
吐くことで腹横筋と骨盤底筋が共同収縮し、腹圧を適切にコントロールできる。
呼吸筋(特に横隔膜)と体幹筋が同調して働くことが、腰椎の安定につながると報告されています(Kolar et al., 2012)。

ピラティスの基本、「集中」!!
【注意点】
- 腰が反りすぎる(過伸展)と腹直筋離開や腰痛を悪化させる可能性があります。
- 初心者は「片脚ずつの動き」から始め、腰がマットやローラーから浮かない範囲で行いましょう。
- 呼吸を止めないこと。呼吸停止は腹圧を乱し、代償運動を引き起こします。
- 首に力が入りやすい人は「顎を軽く引いて、後頭部を長く」保つ意識を。
【出典】
- Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. Spine. 1996;21(22):2640–2650.
- Akuthota V, Nadler SF. Core strengthening. Arch Phys Med Rehabil. 2004;85(3 Suppl 1):S86–S92.
- Kolar P, Sulc J, Kyncl M, et al. Respiration and spinal stabilization: the effect of posture and breathing pattern on spinal stability. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(9):731–738.
- Behm DG, Anderson K, Curnew RS. Muscle force and activation under stable and unstable conditions. J Strength Cond Res. 2002;16(3):416–422.





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