「腸腰筋って足を上げる筋肉でしょ?」
そう思う方、多いと思います。実際、腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)は股関節を屈曲させる働きが有名ですよね。
でも、ここで見逃せないのが呼吸との関係。
実は腸腰筋は、横隔膜のすぐ下に位置し、筋膜や神経で密接につながっています。
つまり、腸腰筋がうまく働かないと、呼吸も浅くなるし、逆に呼吸のクセが腸腰筋を硬くしてしまうこともあるんです。
横隔膜と腸腰筋の“チームワーク”
呼吸をするとき、横隔膜は下に下がります。
そのとき、腹腔内圧(=腹圧)が一時的に上がり、体幹を内側から支えます。
このとき同時に働くのが――
・ 腹横筋(お腹のコルセット)
・骨盤底筋(下から支える)
・多裂筋(背骨を安定)
そして、腸腰筋です。
腸腰筋は、これらの筋群と一緒に働くことで「腹腔という空気の風船」を適正に保ちます。
風船がしっかり膨らんでいれば、姿勢も呼吸も安定するんです。
呼吸が浅い人ほど腸腰筋が硬い理由
デスクワークやストレスで呼吸が浅くなると、横隔膜の動きも小さくなります。
横隔膜が下がらないということは、腸腰筋も伸び縮みしにくくなる。
結果、
→ 骨盤が前に傾きやすくなる
→ 腰が反って(反り腰)腰痛に
→ 呼吸もますます浅くなる
まさに負のループです。
腸腰筋の硬さは「筋肉が短いから」ではなく、「呼吸が浅いから動けてない」場合も多いんです。
姿勢と呼吸のバランスを取り戻すには
ピラティスで大事にしている「呼吸×コアの協調」はまさにこの仕組み。
呼吸を整えながら、腸腰筋と腹横筋・横隔膜を一緒に動かすと、自然と体幹が安定します。
たとえば、ブリッジやデッドバグスのようなエクササイズ。
呼吸を止めずに腹圧を感じながら動くことで、腸腰筋が「呼吸筋」として再教育されるんです。
臨床・日常で意識してほしいポイント
①吸う息で姿勢を伸ばす
→ 横隔膜が下がり、腸腰筋が伸びる感覚を意識。
② 吐く息で骨盤を安定させる
→ 腹横筋・多裂筋と腸腰筋が協調して働く。
③ 「力む呼吸」ではなく「支える呼吸」
→ 腹圧は強くするものではなく、保つもの。
まとめ
呼吸は「酸素を取り込む動作」ではなく、「体幹を支える動作」でもあります。
腸腰筋はそのチームの一員。呼吸と一緒に働くことで、姿勢を美しく、腰痛を防ぎ、動作を軽やかにしてくれます。
もし最近、腰の奥が硬い・深呼吸がしづらいと感じたら――
それは「腸腰筋が息をしていない」サインかもしれません。
参考文献
- Kolar P et al., J Appl Physiol., 2010;109(2):315–324.
- Hodges PW & Gandevia SC., J Appl Physiol., 2000;89(2):967–976.
- Bordoni B et al., Cureus, 2020;12(8):e9960.



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