〜前鋸筋(ぜんきょきん)が本気で働く角度とは?〜
はじめに
ピラティスやリハビリでよく行う「四つ這い(クアドラペッド)」の姿勢。
インストラクターやセラピストに「手をもう少し前に出して」と言われたことはありませんか?
実はそれ、**前鋸筋(ぜんきょきん)**というとても重要な筋肉をしっかり働かせるための、理にかなった指導なのです。
前鋸筋とは?
前鋸筋は、肋骨から肩甲骨を前に引き出す筋肉です。
わかりやすく言えば、「猫背を防ぎ、肩を安定させるガードマン」。
この筋肉が働くと、肩甲骨が肋骨にぴったり張り付き、腕をスムーズに動かせるようになります。
逆に前鋸筋が弱いと、肩甲骨が浮いたり(翼状肩甲)、肩こりや肩の痛みの原因にもなります。
なぜ「肩の真下」ではなく「少し前」がいいのか?
研究によると、前鋸筋は**肩関節が約100度屈曲(=肩が体幹より少し前方)**のときに最も活動が高くなります。
🔸肩が真下(90°)のとき
→ 重力線と筋肉の方向がほぼ直線上になり、前鋸筋の働く角度が浅い。
🔸肩を少し前(100〜110°)に出したとき
→ 肩甲骨を前方に押し出す力(外転+上方回旋)が最大化し、前鋸筋が最も効率よく働く。
つまり、手を体の真下ではなく、少し前に出すことで、前鋸筋に「スイッチが入る」状態になります。
実際のエクササイズのポイント
- 肩の真下ではなく、手を少し前(10cmほど)に
- 背中を丸めすぎず、胸を軽く引き上げて「背中を広げる」意識で
- 手のひらで床を軽く押し、肩甲骨が肋骨に沿って前にスライドする感覚を
これで、前鋸筋が働き、肩が安定しやすくなります。
慣れると、胸や首まわりの余計な力が抜けて「軽い四つ這い」が感じられるはずです。
注意点
- 肩を前に出しすぎ(120°以上)ると、僧帽筋上部が優位になり、前鋸筋の効果が減少します。
- 肩関節や胸郭に痛みがある場合は、理学療法士など専門家の指導のもとで行いましょう。
- 「押す力」は強すぎず、床を感じる程度で十分です。
まとめ
✔ 四つ這いで手を少し前に出すと、肩関節は約100度屈曲位となる
✔ この角度で前鋸筋の活動が最大化され、肩の安定性が高まる
✔ ピラティスでも「軽く押す」感覚で前鋸筋を活かすことが重要
参考文献
- Ludewig PM, Cook TM. Phys Ther. 2000;80(3):276–291.
- Ekstrom RA, Donatelli RA, Soderberg GL. J Orthop Sports Phys Ther. 2003;33(5):247–258.
- Cools AM et al. Am J Sports Med. 2007;35(10):1744–1751.




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