最近、雑誌やSNSでも「心臓が固くなる」という言葉を見かけるようになりました。
でも、実際にはどんな状態を指しているのか、少しわかりにくいですよね。
理学療法士として多くの患者さんを見ていると、「心臓も筋肉の一部」として考えることの大切さを感じます。
そして、年齢を重ねても心臓の柔軟性を保つことは“完全に不可能ではない”ということも、研究から見えてきています。
今日は、「心臓のやわらかさ」がなぜ大事なのか、そして運動でどこまで取り戻せるのかを、できるだけわかりやすくお話しします。
心臓の“やわらかさ”とは?
心臓はポンプのように、収縮と拡張をくり返して血液を全身に送り出しています。
この「拡張」のときにしなやかに広がる力が弱くなると、血液をうまく取り込めなくなり、全身に送り出せる量も減ってしまいます。
医学的にはこれを「左室拡張能の低下」や「心室スティフネス(硬さ)」と呼びます。
つまり、「心臓が固くなる」とは、この拡張する力が落ちてしまう状態なんですね。
運動不足がもたらす“静かな変化”
「まだ若いから大丈夫」と思っていても、運動しない生活が続くと、心臓や血管は少しずつ変化していきます。
テキサス大学の研究では、平均53歳の男女が2年間、週4〜5回の有酸素運動を続けたところ、心臓の“硬さ”が改善したという報告があります。
つまり、ある程度の年齢であれば、運動で心臓の柔軟性を取り戻せる可能性があるということです(Howden et al., Circulation, 2018)。
一方で、長年ほとんど運動をしてこなかった人では、心筋や血管のコラーゲン沈着や弾性線維の減少といった構造的変化が進んでおり、
完全に元に戻すのは難しくなるとも言われています。
「何歳でも間に合う」わけではないけれど
アメリカ心臓協会(AHA)の報告では、「中年期(おおよそ45〜64歳)」は心臓がまだ柔軟性を取り戻しやすい“ゴールデンタイム”とされています。
65歳を超えると、心臓や血管の構造変化がより進み、運動による効果が小さくなる可能性があります。
ただし、「まったく意味がない」ということではありません。
研究によっては、高齢者でも運動習慣のある人は、動脈の硬さや心臓への負担が少ないという報告もあります。
運動の効果は年齢とともに減るけれど、ゼロにはならない。
これはとても重要なポイントです。
どんな運動が心臓にいいの?
中年期以降でも効果があったのは、中強度の有酸素運動を週4回ほど続けたケースです。
ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳など、息が弾む程度の運動が目安です。
また、呼吸を意識するピラティスやヨガもおすすめです。
深い呼吸で横隔膜がしっかり動くと、胸郭や心臓まわりの血流が改善し、
自律神経のバランスにも良い影響を与えます。
つまり、「激しい運動」ではなく、続けられる運動がいちばんの薬です。
一度固くなったら終わり?
心臓や血管の“硬さ”は、ある程度までは改善可能ですが、完全には戻らないこともあります。
そのため、若いうちから予防的に動くことが大切です。
言い換えれば、
「まだ平気」と思っている30代のうちに運動習慣をつくることが、
“将来の心臓のやわらかさ”を決めると言っても過言ではありません。
まとめ
年齢を重ねると、誰でも少しずつ心臓は固くなっていきます。
でも、30代・40代で運動を始めれば、その進行を遅らせたり、
ある程度“やわらかさ”を取り戻すことができるというのは、心強いニュースです。
大切なのは、「いつ始めるか」よりも「やめないこと」。
まずは1日30分のウォーキングからでも十分です。
そして呼吸を整え、姿勢を整える運動――ピラティスもその大きな助けになります。
出典
- Howden EJ, Sarma S, Lawley JS, et al. Reversing the Cardiac Effects of Sedentary Aging in Middle Age—A Randomized Controlled Trial. Circulation. 2018. PMID: 29311053
- American Heart Association. A year of committed exercise in middle age reversed worrisome heart stiffness. 2021-09-20.
- NHLBI. Proper exercise can reverse damage from heart aging even at middle age. 2018-01-08.
- Shibata S et al. The effect of lifelong exercise frequency on arterial stiffness. J Physiol. 2018.
- Shibata S et al. Effect of exercise training on biologic vascular age in healthy seniors. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2012.







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