「最近バランスが取りにくい」「立っていると踵にばかり体重がかかる」——
そんな方は、“浮指(うきゆび)”かもしれません。
足の指が地面から浮いた状態を「浮指」と呼びます。
実はこれ、見た目の問題だけでなく、姿勢の崩れや腰・膝の痛みの原因にもつながることがあるのです。
今回は理学療法士の視点から、浮指のメカニズムと改善のポイントを解説します。
浮指とは?
浮指とは、立ったときや歩いたときに足の指(特に第2〜5趾)が地面に接地していない状態のことをいいます。
本来、足の指は立位時に体重を支え、歩くときには地面をしっかり蹴る役割を持っています。
それが機能しなくなると、バランス能力の低下や歩行効率の悪化が起こりやすくなります。
なぜ浮指になるのか?
浮指の原因は1つではありません。
外的要因と内的要因、そして姿勢の連鎖的な影響が関わっています。
1. 外的要因
- クッション性が高すぎる靴
- サイズの合っていない靴(特に大きめ)
- ヒールの高い靴
→ 足の指が地面を感じにくくなり、使わない癖がついてしまいます。
2. 内的要因
- 足底筋群(特に母趾屈筋群や短趾屈筋)の筋力低下
- 後脛骨筋の働きの低下
- 扁平足や外反母趾などのアライメント異常
- 長趾伸筋の過剰な活動(足の指を反らせる筋肉)
3. 姿勢の連鎖
骨盤が後傾し、膝が過伸展した姿勢では重心が後方(踵寄り)に移動します。
その結果、前足部の荷重が減り、足趾が浮いてしまうのです。
浮指がもたらす体への影響
- 重心が後ろにずれることで転倒リスクが上がる
- 膝や股関節への負担が増える(膝過伸展や股関節伸展筋の過緊張)
- 腰痛の原因になる(体幹の過緊張)
- 歩行速度が落ちる・歩幅が狭くなる
実際に研究では、浮指のある人ほどバランス能力が低下しやすいことが報告されています(Tsuruta et al., 2017)。
浮指を改善するための理学療法的アプローチ
1. 感覚入力のトレーニング
- タオルギャザー(足の指でタオルをたぐり寄せる)
- 裸足での重心移動練習(足の指が地面を感じるよう意識)
2. 足底筋群の強化
- 「母趾球」「小趾球」「踵」の3点で支えるトリポッドポジションを意識。
足の指が自然に地面をつかむ感覚を養います。
3. 動的バランスのトレーニング
- バランスパッドや不安定な面での荷重移動練習。
4. 姿勢の修正
- 骨盤の前後傾をコントロールするピラティス系のエクササイズ。
- 膝の過伸展を抑えて、前後方向の重心を整える。
5. 靴の選び方
- 足趾が自由に動かせる、つま先にゆとりのある靴を選びましょう。
- クッション性が高すぎる靴は、かえって足の感覚を鈍らせることもあります。
子どもの浮指と大人の浮指の違い
子どもの浮指は、一時的な発達段階で見られることもあります。
しかし、成人以降に見られる浮指は姿勢や筋機能の偏りが定着していることが多く、意識的な介入が必要になります。
まとめ
浮指は「足だけの問題」ではなく、姿勢全体の乱れを映すサインです。
足趾の感覚と筋力を取り戻すことで、姿勢を整え、全身の安定感を取り戻すことができます。
「なんとなくふらつく」「立っていると疲れる」という方こそ、足元を見直すチャンスです。
理学療法士の現場では、浮指を改善することで
- バランス能力の向上
- 膝や腰の負担軽減
- 姿勢の改善
- 歩行スピードの向上
といった変化がよく見られます。
足趾の接地感覚を高め、しっかり地面をとらえることで、安定した体幹の支えが生まれます。
ピラティスや立位エクササイズと組み合わせることで、より効果的な全身調整が可能です。
理学療法士からのアドバイス
浮指の改善は「足の指を動かすこと」だけではなく、姿勢と全身の連動を整えることがポイントです。
足趾が浮く背景には、骨盤・膝・体幹の動きのクセが必ず存在します。
1日数分でも、
- 足の指で地面を感じる
- 立位で重心を少し前に移す
- 骨盤を軽く前後に動かす
といった意識から始めてみましょう。
体のバランスが変わると、足趾の接地も自然に戻ってきます。
参考文献
川上昌弘ほか. (2019). 成人における足趾機能低下と立位姿勢の関連. 理学療法科学, 34(2): 259–263.
Tanaka, M. et al. (2018). Toe contact and balance control in adults with floating toes. Gait & Posture, 63: 118–123.
加藤大志ほか. (2015). 浮き趾の発生要因と臨床的意義. 日本足の外科学会雑誌, 36(1): 22–27.
Tsuruta, T. et al. (2017). Floating toe and balance ability in older adults. Journal of Orthopaedic Science, 22(3): 542–547.


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