理学療法士が解説|ピラティスのロールアップで「しなやかな背骨」をつくる理由

スポーツのこと

はじめに

「ロールアップって腹筋のきついエクササイズでしょ?」
そう思っている方、けっこう多いんです。

でも理学療法士の視点で見ると、ロールアップの本当の目的は**“脊柱を一つひとつ動かすこと”にあります。
ただの筋トレではなく、
「背骨のしなやかさ」と「体幹の安定性」**を両立させる動作トレーニングなんです。


ロールアップの目的

ロールアップ(Roll Up)は、仰向けからゆっくり起き上がり、座位に戻る動作。
ピラティスの中でも「コントロール」と「セグメント(分節的)」が問われる代表的な動きです。

理学療法的に見れば、この動作で得られるのは次の3つです。

  1. 腹筋群(特に腹直筋・腹横筋)の協調性強化
  2. 脊柱の分節的な屈曲(セグメンタル・フレクション)の獲得
  3. 骨盤と胸郭の運動連鎖の再教育

つまり、「力任せに起き上がる動き」ではなく、「どの椎体をどんな順番で動かすか」を学ぶ動きなんです。


理学療法士的に見た「筋活動の流れ」

研究(Sarti et al., 1996)によると、ロールアップ中は腹直筋が段階的に活動を増やし、体幹屈曲の進行に合わせて多裂筋の活動が抑制されることがわかっています。

つまり、背中の緊張を抜きながらお腹でコントロールしているんですね。

また、Hodges & Gandevia(2000)の研究では、腹横筋が呼吸とともに腹圧をコントロールすることが示されています。
この腹横筋の働きが、腰椎を安定させ、腰痛予防にもつながります。


セグメンタルモーションとは?

理学療法士が大事にするキーワードが「セグメンタルモーション(Segmental motion)」です。
これは「背骨を一気に動かすのではなく、椎体ごとに順番に動かす」という考え方。

ロールアップでは、まず頭→頸椎→胸椎→腰椎の順でゆっくりと屈曲します。
このとき、動きの硬い胸椎(特にTh10〜L2周辺)がスムーズに動くようになると、
姿勢改善や肩こり・腰痛の軽減にも効果が出やすくなります。

Snodgrassら(2014)の研究でも、ロールアップが「胸椎の動きを引き出す」エクササイズとして有用であることが報告されています。


呼吸とコアの関係

ロールアップでは「呼吸」も大切なポイントです。

吸いながら準備し、吐きながらゆっくり起き上がる
このとき、呼気によって横隔膜が上がり、腹圧が高まり、コアが安定します。

つまり、呼吸がうまく使えると「お腹が引き締まる+背骨が軽く動く」という理想の状態になるんです。
理学療法でいう「腹横筋のタイミング改善」や「IAP(腹腔内圧)制御」に相当します。


よくあるエラーと修正ポイント

よくある誤り理学療法士的アプローチ
首ばかり使ってしまう胸椎の動きを出す意識を持つ。頸部屈筋の過活動を抑える。
腰が浮く・反る骨盤後傾を保ち、腹横筋で腹圧をキープする。
股関節屈筋(大腰筋)に頼る骨盤の安定性を保ち、腹筋のリードで起き上がる。
呼吸が止まる吐きながら動くことで腹圧と動作の協調を意識。

どんな人におすすめ?

  • 長時間座っていて背中が固い人
  • 腹筋運動が苦手な人
  • 姿勢改善・胸郭の柔軟性を高めたい人
  • 腰に負担をかけずにコアを鍛えたい人

ただし、急性腰痛・椎間板ヘルニア・骨粗鬆症がある方は避けましょう。
理学療法士など専門家に動作チェックを受けたうえで行うのが安心です。


まとめ

ロールアップは単なる「腹筋運動」ではなく、背骨の健康と体幹の賢い使い方を取り戻すリハビリ的エクササイズです。

理学療法士的に見ると、

  • 胸腰移行部の可動性改善
  • 腹圧と呼吸の協調
  • 姿勢再教育

これらを自然に学べる、とても価値のある動きです。
「起き上がる」という日常動作の中に、体の機能回復のヒントが隠れています。


参考文献

  • Sarti, M. A., Monfort, M., Fuster, M. A., & Villaplana, L. A. (1996). Muscle activity in upper and lower rectus abdominis during abdominal exercises. Arch Phys Med Rehabil, 77(12), 1293–1297.
  • Snodgrass, S. J., et al. (2014). The Pilates “roll-up” exercise: an examination of spinal kinematics, surface EMG and movement pattern variability. J Bodyw Mov Ther, 18(3), 395–403.
  • Hodges, P. W., & Gandevia, S. C. (2000). Activation of the human diaphragm during a repetitive postural task. Spine, 25(17), 2063–2071.
  • Latey, P. (2001). The Pilates method: history and philosophy. J Bodyw Mov Ther, 5(4), 275–282.

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