【理学療法士が解説】クライミングで「パキった!」その瞬間にすべきこととリハビリの進め方

スポーツのこと

クライミングをしていて「パキッ」と音がして指がズキン…
クライマーなら一度は聞いたことのある“パキる”という言葉。

実はこれ、**「プーリー損傷」**と呼ばれる腱の支持靭帯の損傷の可能性が高く、適切な処置を怠ると長期離脱につながるケガなんです。
今回は理学療法士として、パキったときの応急処置からリハビリ、復帰までの流れをまとめていきます。


パキる=プーリー損傷とは?

指の屈筋腱は「プーリー」という靭帯性のトンネルに支えられており、これがあることで腱が骨から浮かずにスムーズに動きます。

しかし、フルクリンプ(関節を深く曲げてホールドを握る)などの強い張力がかかると、A2・A3プーリーに急激なストレスがかかり、「パキッ」という音とともに部分または完全断裂が起こります。


まずは48時間、RICEを徹底!

パキッとやってしまった直後は、「痛みが軽くても登らない」ことが何より重要です。
初期48時間は炎症を抑えるためにRICE処置
を徹底しましょう。

RICEとは?

項目内容
Rest(安静)登攀・屈曲動作を中止
Ice(冷却)15〜20分を1〜2時間おき
Compression(圧迫)軽くテーピングで腫れを抑制
Elevation(挙上)心臓より高く保つ

👉 Schöffl & Küpper (2013, Wilderness Environ Med) によれば、初期48時間のRICE処置が炎症抑制と予後改善に有効とされています。


【3日〜2週間】動かさないほうが悪化する?

痛みが軽くなってきたら、腱が癒着しないように軽い自動運動を始めましょう。
指を「軽く曲げる・伸ばす」程度でOK。

テーピングスプリント(Hテープ)で少し制限を加えた状態で、腱滑走運動を行うのが理想です。

📚 根拠:Michaelsen et al. (2014, J Hand Ther.)
→ 早期軽度運動が腱の癒着を防ぎ、治癒を促進することが報告されています。


【2〜8週間】軽い負荷でリハビリ開始

痛みが減ってきたら、徐々に負荷をかけていきましょう。

  • 弾性バンドでの軽い指屈曲運動
  • ゴムボールを軽く握る運動
  • テーピングサポート下でのスローパー中心の登攀

ただし、フルクリンプは禁止です。
Schöffl et al. (2006, J Hand Surg Eur Vol) によると、負荷再導入は4〜8週以降が安全とされています。


【8〜12週〜】再登と再発予防へ

MRIでの治癒確認には約12週かかるとされます。
この時期は、握力・持久力・コーディネーションを回復させる段階です。

  • ハングボード→軽いリードクライミングへ移行
  • テーピングを徐々に外す
  • クリック音や痛みが残る場合は再受診

(Moutet, 2015, Hand Clinics


理学療法士がすすめる「パキリ防止ピラティス」

プーリー損傷の背景には「局所過負荷」があります。
つまり、指だけで支えるフォームや、体幹の力が伝わらない登り方が根本原因。

ピラティスでは、以下の3つを意識して登攀フォームを再教育します。

  1. コアの安定性(腹横筋・骨盤底筋の協調)
  2. 肩甲骨の安定と前鋸筋の活性化
  3. 前腕の過緊張緩和と力の伝達改善

→ これにより、ホールドを「握る」よりも「体で押さえる」感覚が育ち、プーリーへの局所負担を減らせます。


まとめ

フェーズ目的期間の目安
急性期炎症・出血の抑制(RICE)〜3日
亜急性期癒着防止と腱滑走3日〜2週
回復期負荷再導入と筋腱回復2〜8週
完全回復期再登と再発予防8〜12週〜

焦らず、段階的に回復を進めることが**“再び登るための最短ルート”**です。


参考文献

  1. Schöffl V, Hochholzer T, Imhoff AB. “Pulley injuries in rock climbers.” Br J Sports Med. 2003;37(6):468–472.
  2. Schöffl V, Küpper T. “Injuries at the crag: treatment of common rock climbing injuries.” Wilderness Environ Med. 2013;24(3):225–235.
  3. Michaelsen SM, et al. “Early mobilization after flexor tendon repair: a systematic review.” J Hand Ther. 2014;27(1):3–12.
  4. Moutet F. “Rehabilitation of flexor tendon injuries in the hand.” Hand Clin. 2015;31(2):295–302.

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