【結論】
尿もれの多くは「骨盤底筋の働きの低下」と「腹圧コントロールの乱れ」によって起こります。
ピラティスでは、これらの要素を呼吸とともに整えていくことで、“骨盤底筋が自然に働くカラダ”を再教育することができるため、尿もれの改善につながる可能性があります。
尿もれはなぜ起こるのか?
「咳やくしゃみで漏れる」「走ったときに少し出てしまう」——
こうした尿もれの多くは腹圧性尿失禁と呼ばれます。
これは、咳やくしゃみ、ジャンプなどで一瞬お腹の圧(腹圧)が高まったときに、
膀胱の出口(尿道)を支える骨盤底筋群が十分に収縮できず、尿を押し出してしまう状態です。
この骨盤底筋は、いわば「骨盤のハンモック」。
尿道や膀胱、子宮などの臓器を支える筋肉群で、呼吸や姿勢維持にも関係しています。
特に出産・加齢・姿勢不良などによって、
骨盤底筋が伸びきったり、正しく使えなくなったりすると、
尿を止める「最後のゲート」がうまく閉まらなくなります。
実は“お腹の筋肉”だけでは守れない
多くの人は、「尿もれ=骨盤底筋を鍛えればいい」と考えがちですが、
実際にはもっと複雑なメカニズムが働いています。
骨盤底筋は、次の4つの筋群と密接に連携しています:
- 横隔膜(呼吸の主役)
- 腹横筋(お腹の深層)
- 多裂筋(背骨を支える)
- 骨盤底筋(下から支える)
これらはまとめて「インナーユニット」と呼ばれ、
呼吸に合わせて上下・内外に動きながら、体幹の内圧(腹圧)をコントロールしています。
呼吸が浅い・姿勢が崩れている・腹圧の抜き方がわからない——
こうした状態では、骨盤底筋だけを鍛えても十分に働きません。

筋肉で箱みたいになってるんだね
ピラティスがなぜ効果的なのか?
ピラティスは、呼吸と姿勢を整えながら、インナーユニット全体を協調的に使うトレーニングです。
- 呼吸で腹圧をコントロールする
胸式呼吸をベースに、肋骨を広げながら吸い、吐くときに肋骨を締めて腹横筋と骨盤底筋を同時に働かせます。
この呼吸法により、**骨盤底筋を「締める」のではなく「自然に反応させる」**ことができます。 - 姿勢改善による負担軽減
猫背や反り腰姿勢では、骨盤底筋が常に引き伸ばされ、うまく収縮できません。
ピラティスで骨盤の位置や脊柱アライメントを整えることで、
骨盤底筋が「働きやすいポジション」に戻ります。 - 動作中の骨盤底筋の反応性を高める
ピラティスでは、動きの中でインナーマッスルを意識的に使うため、
立ち上がり・くしゃみ・ランニングなど日常動作での骨盤底筋反応を高めることができます。
つまりピラティスは、「骨盤底筋を鍛える運動」ではなく、
骨盤底筋を“呼吸とともに使える体”を作るリハビリ的運動といえるのです。
研究から見たピラティスの効果
複数の研究で、ピラティスが尿漏れ改善に有効である可能性が示されています。
- Culliganら(2010):8週間のピラティスで腹圧性尿失禁の症状が有意に減少。
- Bøら(2015):骨盤底筋トレーニング単独よりも、ピラティス併用群の方が改善効果が高かった。
- Kimら(2020):産後女性へのピラティス介入で、骨盤底筋厚と筋収縮力が増加。
これらの結果から、ピラティスは単なるフィットネスではなく、
機能的リハビリの一形態としての効果が注目されています。
【注意点】
- **重度の尿失禁(夜間も漏れる・常時パッドが必要など)**の場合は、必ず泌尿器科や婦人科での評価を受けましょう。
- 自己流の腹筋運動は腹圧を過剰に上げて、かえって症状を悪化させることがあります。
- **「締める」よりも「呼吸とともに反応させる」**意識が大切です。
- ピラティスを行う際は、骨盤底筋や呼吸法に詳しいインストラクターのもとで行うのが安全です。
【出典】
- Culligan PJ, et al. Obstet Gynecol. 2010;115(5):1059–1068.
- Bø K, et al. Int Urogynecol J. 2015;26(2):223–232.
- Kim HJ, et al. J Phys Ther Sci. 2020;32(5):320–325.
- Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System, 3rd ed. Elsevier, 2017.





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