はじめに
背中が丸まってきた、姿勢が悪いと言われる──それはもしかすると「猫背」かもしれません。
猫背は見た目の問題だけでなく、肩こり・腰痛・呼吸機能の低下など、体にさまざまな影響を及ぼします。
本記事では理学療法士の視点から、
- 猫背とは何か
- 原因とメカニズム
- 放置によるリスク
- 改善の方向性
を、医学的根拠をもとにわかりやすく解説します。
猫背とは?
猫背とは、背骨の生理的S字カーブが崩れ、胸椎の後弯(丸まり)が過剰になった状態を指します。
頭が前に突き出し、肩が内巻きになる「前方頭位」や「円背姿勢」を伴うことが多いです。
正常な脊柱は「頸椎前弯」「胸椎後弯」「腰椎前弯」というS字で衝撃を吸収しています。
しかし猫背では胸椎後弯が強くなり、頭部重心が前方へ移動。頸椎の過伸展、肩甲骨の外転が起こります(Kendall et al., 2005)。
【注意点】
「背中が曲がっている=猫背」と単純に判断するのは誤りです。
筋肉や骨格のバランス、呼吸パターンなど、複数の要因が関係しています。
猫背の原因
猫背は「筋のアンバランス」「長時間の座位姿勢」「呼吸パターンの乱れ」が主な原因です。
1. 筋のアンバランス
胸の筋肉(大胸筋・小胸筋)が硬くなり、背中の筋肉(菱形筋・僧帽筋中部・下部)が弱まることで、肩甲骨が外側に開き、胸椎がさらに丸まります。
→ 肩が内巻きになり、いわゆる「巻き肩」姿勢を助長します。
(Czaprowski et al., Manual Therapy, 2018)
2. 長時間の座位姿勢
デスクワークやスマホ操作によって骨盤が後傾し、背骨が全体的に丸まる姿勢が習慣化します。
3. 呼吸パターンの乱れ
胸式呼吸が強くなると、肋骨の動きが制限され、横隔膜や腹横筋がうまく働かなくなります。
結果、姿勢保持に必要な腹圧が低下し、背中の丸まりを助長します(Lee & Hodges, 2016)。
【注意点】
筋力低下だけでなく、「呼吸」や「姿勢制御神経」の問題が関与していることを忘れてはいけません。
猫背による合併症・リスク
猫背を放置すると、筋骨格系の不調だけでなく、呼吸・循環・メンタルにも影響します。
主なリスク
- 肩こり・腰痛の増悪
肩甲骨位置の変化により僧帽筋上部や肩甲挙筋が過緊張(O’Sullivan et al., 2014)。 - 呼吸機能低下
胸郭の可動性が減少し、肺活量が低下(Koseki et al., 2019)。 - 見た目・心理的影響
姿勢の悪化は「自信がなさそう」「疲れて見える」といった印象を与え、実際に自己評価を下げるという報告も(Peper et al., 2017)。
【注意点】
骨粗鬆症による円背(脊椎圧迫骨折)は「猫背」とは別の疾患。区別して評価する必要があります。
猫背を放置するとどうなる?
放置すると、姿勢の崩れが進行し、慢性的な痛みや呼吸機能低下、生活の質(QOL)低下につながります。
胸椎後弯が強まると、頭がさらに前方へ移動(forward head posture)。
これにより、頸部伸筋群(特に後頭下筋群)への負担が増し、首の痛みや変形を助長します(Nejati et al., 2014)。
「年齢のせい」と思って放置するのが最も危険です。
軽い運動やピラティスなどでの胸郭可動性・体幹安定性の改善が予防につながります(Sahrmann, 2011)。
まとめ:猫背は「姿勢の崩れ」ではなく「機能の崩れ」
猫背は単なる見た目の問題ではなく、体の使い方・呼吸・筋バランスの機能的な崩れが原因です。
正しい理解と改善が、肩こり・腰痛予防や若々しい姿勢維持につながります。
姿勢改善と呼吸機能の改善を組み合わせたアプローチ(例:ピラティス)が有効と報告されています(Kim et al., 2018)。
自己流での「猫背矯正ベルト」や「強いストレッチ」は逆効果のことも。
理学療法士やピラティスインストラクターに相談することが安全です。
参考文献
- Kendall FP, et al. Muscles: Testing and Function with Posture and Pain. Lippincott Williams & Wilkins, 2005.
- Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System, 2017.
- Czaprowski D, et al. Manual Therapy, 2018.
- Lee LJ, Hodges PW. J Orthop Sports Phys Ther, 2016.
- O’Sullivan PB et al., Spine, 2014.
- Koseki T et al., J Phys Ther Sci, 2019.
- Peper E et al., Biofeedback, 2017.
- Nejati P et al., J Manipulative Physiol Ther, 2014.
- Sahrmann SA. Movement System Impairment Syndromes, 2011.
- Kim MH et al., J Back Musculoskelet Rehabil, 2018.





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