【理学療法士が解説】腸腰筋は感じにくいって本当?意識できない理由と感じやすくする方法

ぴらてぃすのお勉強

はじめに

ピラティスやトレーニングでよく耳にする「腸腰筋(ちょうようきん)」。
「腸腰筋を意識して」「もっと感じて」と言われても、いまいちピンとこない…という方は多いのではないでしょうか?

実はそれ、あなたの感覚が鈍いわけではなく、腸腰筋という筋肉の構造と働き方のせいなんです。
この記事では、理学療法士の視点から「なぜ腸腰筋は感じにくいのか」、そして「どうすれば感じられるようになるのか」を解説します。


腸腰筋とは?どこにある筋肉?

腸腰筋は「大腰筋」と「腸骨筋」という2つの筋肉の総称です。
背骨(腰椎)から太ももの骨(大腿骨小転子)につながり、股関節を曲げたり、姿勢を支えたりする重要な深層筋(インナーマッスル)です。

ただし、この腸腰筋——とても深い位置にある筋肉
お腹の表面からは直接触れないほど内側にあり、腹筋群や内臓の奥に隠れています。

そのため、「触って確認する」ことができず、体の感覚としてもとらえにくいのです。


腸腰筋が感じにくい3つの理由

① 深部にあるから触れない

腸腰筋は腹膜の裏側にあり、表面の筋肉や内臓に覆われています(Bordoni et al., 2021)。
そのため、皮膚や浅層筋のように「動きを感じる」ことが構造的に難しいのです。

② 単独で働かない

股関節を曲げるときは、腸腰筋だけでなく大腿直筋や縫工筋など他の筋肉と協調して動くのが普通です(Neumann, 2017)。
つまり、腸腰筋だけを「ピンポイントで使う」ことは、そもそも難しい動きです。

③ 深層筋は感覚が鈍い

体の奥にある筋肉ほど、運動や位置を感じ取る神経(固有感覚受容器)が少なくなります(Proske & Gandevia, 2012)。
浅い筋肉よりも“動いている感覚”が弱いのは、生理的に当然のことなのです。


「感じない=使えていない」ではない!

ここがとても大事なポイントです。

腸腰筋を「感じられない」=「使えていない」と考える方が多いのですが、
実際は意識できなくてもちゃんと働いていることがほとんどです。

腸腰筋は、立っているときや歩いているとき、座って姿勢を保つときなど、無意識のうちに活動しています。
むしろ意識的に「感じよう」と力を入れすぎると、腰や太ももの筋肉が代償的に働き、腰痛の原因になることもあります。


腸腰筋を感じやすくする3つのポイント

感じにくい腸腰筋ですが、ピラティスの考え方を取り入れると少しずつ感覚が育っていきます。
ポイントは次の3つです。


① 呼吸(吸気)を使う

吸う息で横隔膜が下がると、腸腰筋はその動きと連動して働きます(Bogduk et al., 1997)。
呼吸に合わせて骨盤を安定させながら、お腹の奥が支えている感覚を探してみましょう。

🔹おすすめ:仰向けで膝を立て、吸う息で下腹部がふんわり膨らむのを感じる。
背中が反らず、骨盤が安定していればOK。


② 骨盤をニュートラルに保つ

反り腰の姿勢では腸腰筋が短くなりすぎて感覚が鈍くなります。
ASIS(前の骨)と恥骨が水平になる位置を目安に、中立骨盤を保つと筋長が整い、感覚が出やすくなります(Neumann, 2017)。

🔹おすすめ:座位や仰向けで、骨盤を前後に転がしながら「ちょうど真ん中」を探す練習を。


③ 小さな股関節屈曲で探る

腸腰筋は股関節を45°くらいまで曲げる範囲でよく働きます(Andersson et al., 1997)。
大腿直筋が優位になる前に止めるのがポイントです。

🔹おすすめ:「マーチング」
仰向けで片脚ずつ太ももをゆっくり上げ、腰を反らさず呼吸を続ける。
下腹部と腰の奥で脚を支えるような感覚を探してみましょう。


骨盤底筋とのつながりも意識して

骨盤底筋と腸腰筋・腹横筋は同時に働く傾向があります(Sapsford et al., 2001)。
吸気で骨盤底が下がり、呼気でふわっと引き上がる動きを感じることで、腸腰筋の奥の感覚もとらえやすくなります。


まとめ

  • 腸腰筋は深部にあるため、感じにくいのは構造的に当然
  • 「感じない=使えていない」ではなく、意識せずに働いていることが多い。
  • 呼吸・骨盤の中立・小さな股関節運動を組み合わせることで、感覚を育てることができる。

ピラティスの練習を通して、自分の体の奥にある腸腰筋の存在を少しずつ“思い出す”ような感覚を大切にしてみてください。


【参考文献】

  • Bordoni B, Varacallo M. Anatomy, Abdomen and Pelvis, Psoas Major Muscle. Cureus, 2021.
  • Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System, 3rd ed. Elsevier, 2017.
  • Proske U, Gandevia SC. The proprioceptive senses: their roles in signaling body shape, body position and movement, and muscle force. Physiol Rev. 2012;92(4):1651–1697.
  • Bogduk N, Pearcy M, Hadfield G. Anatomy and biomechanics of psoas major. Clin Anat. 1997;10(2):109–118.
  • Andersson E, Nilsson J, Thorstensson A. Intramuscular EMG from the hip flexor muscles during human locomotion. J Rehabil Med. 1997;29(1):56–60.
  • Sapsford R et al. Co-activation of the abdominal and pelvic floor muscles during voluntary exercises. Phys Ther. 2001;81(5):1037–1046.

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