前鋸筋と呼吸の深い関係|理学療法士が解説する“姿勢と呼吸のつながり”

ぴらてぃすのお勉強

はじめに

「前鋸筋(ぜんきょきん)」と聞くと、肩甲骨を動かす筋肉というイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし実は、前鋸筋は呼吸にも深く関わる筋肉です。
この筋肉がうまく働かないと、浅い呼吸・巻き肩・肩こりなど、体のバランスにも影響が出ることがあります。

本記事では、理学療法士の視点から「前鋸筋と呼吸の関係」について詳しく解説します。


前鋸筋とは

前鋸筋は、第1〜9肋骨から始まり、肩甲骨の内側縁(特に下角)につく筋肉です。
脇の下から背中の外側を包み込むように走り、胸郭と肩甲骨をつなぐ重要な筋です。

主な働き

  • 肩甲骨を前に引く(外転)
  • 肩甲骨を上方回旋させる(腕を挙げるとき)
  • 肩甲骨を胸郭に固定する
  • 吸気を助ける(吸気補助筋として)

つまり前鋸筋は、肩の動きと呼吸の橋渡しをする筋肉といえます。


呼吸と前鋸筋の関係

1. 肩甲骨が固定されているときの呼吸

腕を動かさずに肋骨が動く場面では、前鋸筋は**吸気筋(息を吸う筋肉)**として働きます。
このとき、肋骨を外側に引き上げることで胸郭の拡張を助けます。

特に、運動中や深呼吸など「努力吸気」と呼ばれる場面で前鋸筋は活発に活動します。

研究によると、

前鋸筋は外肋間筋と協調して胸郭を拡張し、努力吸気で重要な役割を果たす(De Troyer et al., J Appl Physiol, 1999)。


2. 姿勢と呼吸の関係

呼吸と姿勢は密接に関係しています。
胸椎が丸まった「円背姿勢」では、肋骨の動きが制限され、前鋸筋がうまく働かなくなります。

  • 胸椎屈曲(猫背)では、肋骨の動きが硬くなり、呼吸が浅くなる
  • 胸椎伸展(姿勢を起こす)では、肋骨が広がりやすく、前鋸筋も働きやすくなる

つまり、良い姿勢を作ることは深い呼吸を促し、呼吸が整うことで姿勢も整うという相互関係があります。


よくあるエラーと注意点

  • 頸や肩に力を入れて呼吸してしまう(斜角筋や胸鎖乳突筋の代償)
  • 背中を丸めすぎて胸郭を閉じてしまう
  • 胸を膨らませようとしすぎて、肋骨の自然な動きを妨げる

ポイントは「胸を広げる」ではなく、「肋骨の動きを感じる」ことです。
体の内側から呼吸で広がる感覚を意識することで、より前鋸筋が効果的に働きます。


まとめ

前鋸筋は、肩甲骨を動かすだけでなく、呼吸を助ける重要な筋肉です。
胸郭の動きが悪くなるとこの筋肉は働きにくくなり、浅い呼吸が姿勢を崩すという悪循環を招くこともあります。

呼吸と前鋸筋、そして姿勢は、身体機能を支える三位一体の関係です。
ピラティスやリハビリでは、呼吸を整えることが筋活動を整える第一歩になります。


参考文献

  1. De Troyer A, et al. J Appl Physiol. 1999;87(3):1046–1052.
  2. Hodges PW et al. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2002;17(6):493–504.
  3. Lee D. The Thorax: An Integrated Approach. 2018.
  4. Kapreli E et al. Respir Physiol Neurobiol. 2008;160(1):58–66.

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