はじめに
ピラティスのレッスンで「肩の力を抜いて」と言われても、うまく力が抜けない。
がんばって肩甲骨を動かそうとしても、なんだか肩まわりがガチガチのまま。
そんな人を現場でよく見かけます。
実は、肩甲骨そのものよりも“肋骨の硬さ”が原因になっていることが多いんです。
今日は理学療法士としての視点から、その仕組みと改善のヒントをお話しします。
肩甲骨と肋骨の関係
肩甲骨は背中に浮かんでいるように見えますが、実際には肋骨の上をスライドするように動いています。
つまり、肋骨が動かなければ、肩甲骨も正しく動かないという構造です。
呼吸が浅く、肋骨が広がりにくい人は、この滑りが制限され、肩の動きに無理が生じます。
その結果、「肩に力を入れないと腕が上がらない」という状態になるのです。
よくある間違い
肩が上がる=肩甲骨を下げよう、という指導をよく耳にします。
もちろん間違いではありませんが、肋骨が硬いまま無理に肩甲骨を下げると、首や僧帽筋の緊張が増します。
このパターンは、デスクワークやスマホ操作が多い人に特に多く見られます。
肋骨が後方に丸まって固定され、胸郭の動きが閉じているのです。
呼吸と肋骨の柔軟性
肋骨を柔らかくする一番の方法は、呼吸を整えることです。
吸うときに肋骨を横に広げ、吐くときにやさしく閉じる。
この“膨らむ・閉じる”の動きを繰り返すことで、肋骨の関節や筋膜が少しずつ動きを取り戻します。
肋骨が動けば、肩甲骨は自然と滑らかに動き始めます。
理学療法士から見た改善のコツ
ピラティスでは「肩甲骨を動かす前に、肋骨を感じる」ことがとても大切です。
胸式呼吸の練習や胸郭を広げるストレッチ、フォームローラーを使ったリリースなどは特に効果的です。
肩の力を抜こうとするのではなく、肋骨を広げる呼吸に意識を向けるだけで、肩の余計な緊張がすっと抜けることもあります。
まとめ
肩に力が入る人の多くは、肩甲骨ではなく“肋骨”が硬いのが原因です。
呼吸で肋骨を動かし、胸郭の柔軟性を高めることで、肩の動きは驚くほど軽くなります。
「肩を下げる」よりも「肋骨を広げる」――この意識の切り替えが、ピラティスでも日常生活でも大切なポイントです。
参考文献
- Ludewig PM, Reynolds JF. The association of scapular kinematics and glenohumeral joint pathologies. J Orthop Sports Phys Ther. 2009;39(2):90–104.
- Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System. 3rd ed. Elsevier; 2017.
- Lee D. The Thorax: An Integrated Approach. 2018.
- McLaughlin L, et al. The influence of thoracic posture on shoulder function. Man Ther. 2010;15(5):457–460.





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