ピラティスで呼吸が深まる理由

ぴらてぃすのお勉強

〜理学療法士が伝えたい、胸のひらきと心の余裕〜


「呼吸が浅い気がする」そんなあなたへ

「最近、息が浅い気がする」「呼吸を意識してって言われても、よく分からない」
そんな声をよく聞きます。

実は“呼吸の浅さ”には、ストレスや姿勢のくずれ、そして胸や背中の動きの固さが深く関係しています。
ピラティスで「呼吸が深くなる」と感じるのは、ただリラックスしているからではなく、体の構造そのものが変わっているからなんです。

今日は、理学療法士の視点から「ピラティスで呼吸が深まる理由」を、なるべく分かりやすくお話しします。


胸式呼吸ってなに?

ピラティスでは「胸式呼吸」を基本にします。
これは胸の横、つまり肋骨を広げるように吸う呼吸です。
お腹をふくらませる腹式呼吸とは少し違い、呼吸をするたびに肋骨や胸郭(胸のカゴのような骨格)を動かします。

この呼吸のポイントは、「横隔膜」と呼ばれる呼吸の主役の筋肉。
横隔膜は肺の下にあり、息を吸うと下がり、吐くと上がります。
この動きに合わせて、腹横筋(ふくおうきん)・多裂筋(たれつきん)・骨盤底筋といった深層筋も一緒に働きます。

つまりピラティスの呼吸は、“体幹トレーニング”でもあり、“呼吸筋トレーニング”でもあるんです。


呼吸が浅くなる原因

デスクワークやスマホ操作など、前かがみの姿勢が続くと胸が閉じやすくなります。
胸郭(肋骨まわり)が硬くなると、吸うときに肋骨が広がらなくなり、横隔膜も動きにくくなります。

そうすると、首や肩の筋肉(胸鎖乳突筋や斜角筋など)で息を吸う“補助呼吸”が増え、
「肩が上がる浅い呼吸」になってしまうのです。

呼吸が浅いと、酸素を取り込みにくくなり、疲れやすさや集中力の低下、自律神経の乱れにもつながります。


ピラティスで呼吸が深まる3つの理由

① 胸郭が柔らかくなる

ピラティスでは、肋骨を広げる動きや胸椎(背中の真ん中あたり)の回旋・伸展を多く取り入れます。
その結果、胸郭が柔らかくなり、呼吸のたびに肋骨がしっかり動くようになります。

実際に、ピラティスを行ったグループでは胸郭と腹部の可動性(トラコアバドミナルモビリティ)が有意に改善したとの報告もあります(Pereira et al., Fisioterapia em Movimento, 2017)。
胸郭が動きやすいほど、息は自然と深くなります。

② 呼吸筋・体幹の深層筋が活性化する

ピラティス呼吸では、吸う・吐くの動作に合わせて体幹の深い筋肉が働きます。
腹横筋・多裂筋・骨盤底筋が呼吸と連動して働くことで、胴体全体が“筒”のように安定し、呼吸の通り道が整うのです。

研究でも、ピラティス呼吸を8週間行ったグループは腹横筋と多裂筋の筋活動が有意に増加したと報告されています(Lee et al., Journal of Physical Therapy Science, 2016)。

この“呼吸と体幹の連動”こそ、ピラティスが普通の運動と違う最大の特徴です。

③ 姿勢が整い、横隔膜が動きやすくなる

ピラティスを続けると、自然と姿勢が整ってきます。
特に胸の位置が起きて、肋骨が前に突き出さずに“呼吸しやすい姿勢”が保てるようになります。

姿勢の改善により横隔膜の上下運動がスムーズになり、深い呼吸が可能になります。
さらに、副交感神経が優位になりやすく、リラックス効果も期待できます。


実際の変化を感じるポイント

・レッスン後、呼吸がしやすい
・肩や首のこりが軽くなった
・姿勢が自然にまっすぐになった
・深呼吸したときに胸が広がる

これらは、胸郭の動きと横隔膜の働きが回復しているサインです。
呼吸が深くなると、体だけでなく気持ちにも余裕が生まれます。


理学療法士として伝えたいこと

「呼吸が深まる」というのは、単なる感覚ではなく、体の機能が整ってきた証拠です。

理学療法の観点では、呼吸は姿勢制御と密接に関係しています。
横隔膜と腹横筋、多裂筋、骨盤底筋は“インナーユニット”として連動し、呼吸のたびに体幹の安定を支えています。

つまり、呼吸を整えることは「姿勢を整えること」。
そして、姿勢が整うことで「呼吸が深くなる」――。
この好循環を作り出すのが、ピラティスの魅力です。


まとめ

ピラティスで呼吸が深まる理由は、

  1. 胸郭の可動性が改善する
  2. 呼吸筋と体幹筋が連動して働く
  3. 姿勢が整い、横隔膜が動きやすくなる

その結果、呼吸が自然に深くなり、心も体もリセットされていきます。
ピラティスは「呼吸を使った姿勢のリハビリ」とも言えます。

レッスンでは、ぜひ「肋骨が広がる感覚」「吸う息で体が伸びる感覚」に意識を向けてみてください。
それだけでも、きっと呼吸の深さが変わってきます。


参考文献

  1. Lee, K., et al. (2016). The effect of Pilates breathing training on trunk muscle activation in healthy subjects. Journal of Physical Therapy Science, 28(2), 757–760. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5332969/
  2. Pereira, L. M., et al. (2017). Effect of Pilates exercises on thoracoabdominal mobility of healthy adults. Fisioterapia em Movimento, 30(2), 237–244. https://www.scielo.br/j/fp/a/yhPYWBNZdBZ8CsTRKJT8SLv/
  3. ElDeeb, A. M., et al. (2023). Effects of thoracic mobilization combined with respiratory muscle endurance training on diaphragmatic thickness and respiratory functions. Journal of Exercise Rehabilitation, 19(5), 313–321. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10222135/
  4. García, A. N., et al. (2019). Pilates training improves respiratory muscle strength and thoracoabdominal mobility in healthy subjects: Systematic review. International Journal of Health Sciences and Research, 9(1), 287–294. https://www.ijhsr.org/IJHSR_Vol.9_Issue.1_Jan2019/42.pdf

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